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山形地方裁判所酒田支部 昭和44年(わ)65号 判決

主文

一、被告人小野甚二郎を懲役八月に、被告人梅田武雄を懲役六月に各処する。

二、被告人両名について、それぞれこの裁判確定の日から三年間右各刑の執行を猶予する。

三、被告人小野甚二郎より、押収に係るゴルフセット一組(ケース入りゴルフクラブ七本、昭和四五年押第三号符号四六ないし五三)を没収し、かつ金一七万三、八〇〇円を追徴する。

四、訴訟費用は、全部これを被告人両名の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人小野甚二郎は、昭和三九年四月一日から山形県飽海地方事務所耕地課事業係(機構改革により昭和四四年四月一日からは庄内支庁経済部土地改良課団体営係)の係長として、管内土地改良に関する事業等の調査、計画、指導、監督などの職務に従事していた公務員であり、被告人梅田武雄は、鶴岡市本町二丁目六番一五号に本店を置き電気機械器具、揚水機等の販売及び据付け、動力配線その他の附帯工事などを業とする三和商事株式会社の代表取締役であるところ、

第一、被告人小野は、被告人梅田から、同地方事務所管内土地改良事業等に関する揚水機設置工事の請負などにつき同会社が職務上好意的な取扱いを受けたことに対する謝礼の趣旨並びに今後とも不利益な取扱いを受けることなく便宜な取扱いを計って貰いたい趣旨で供与されるものであることを知りながら、

一、昭和四二年一一月頃、当時酒田市船場町所在の右飽海地方事務所において、ゴルフセット一組(ケース入りゴルフクラブ・ウッド二本及びパタを含むアイアン五本)(価額約四万八、〇〇〇円相当)の贈与を受け

二、昭和四四年三月頃同事務所において、さきに同会社から買受けていた暖房器具ファンコイルユニット一台、同ルームヒート二台、温水循環ポンプ一台及びホームポンプ一台(卸売価額合計金一七万三、八〇〇円相当)の右同額以上の売買代金債務につき、債務免除の申入れを受け、これを承諾して右債務免除による利益を取得し

もってそれぞれ前記職務に関し賄賂を収受し

第二、被告人梅田武雄は、被告人小野甚二郎に対し、前記第一と同趣旨で、

一、前記第一の一記載の時、同記載の場所において、同記載のゴルフセット一組を贈与し

二、前記第一の二記載の時、同記載の場所において、同記載の売買代金債務を免除し

もってそれぞれ被告人小野の前記職務に関し賄賂を供与したものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

被告人小野の判示第一の一、二の各所為は、いずれも刑法第一九七条第一項前段に該当するところ、同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条、第一〇条により犯情重い判示第一の二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で処断すべく、同被告人を懲役八月に処し、情状により同法第二五条第一項第一号を適用して三年間右刑の執行を猶予する。

押収に係るゴルフセット一組(ケース入りゴルフクラブ七本)は、被告人小野の判示第一の一の犯罪において収受した賄賂であるから、これを同法第一九七条の五前段により没収する。

被告人小野の判示第一の二の収賄罪における賄賂は、右犯行前に買受けた暖房器具等の物件の売買代金債務の免除を受けることによる利益であるから、右買受物件は、刑法第一九七条の五所定の賄賂には該らないし、同法第一九条第一項各号所定物件にも該らないので、右物件を没収できないことは勿論であり、右債務免除の利益自体もその性質上没収することができないから、同法第一九七条の五後段により被告人小野から右利益の価額を追微すべきものである。本件においては、前記犯罪事実認定に供した証拠によれば、前記物件売買の契約当時より本件犯行当時に至るまで、売買当事者双方のそれぞれの立場で契約に当った被告人両名間に売買代金額が明示されないままその代金債務が免除されたものであるが、かような場合でも、売買に当り契約当事者の意思表示として被告人両名により表示されたところに従って、双方の意思内容を合理的に解釈し、その意思表示の合致する契約の内容に基く代金債権の価額をもって債務免除による利益の価額となすべきものである。そして≪証拠省略≫によれば、本件の売買は、買主たる被告人小野より買受けの注文をなし売主三和商事株式会社代表者たる被告人梅田がこれを承諾して昭和四三年一〇月中旬頃より同年一二月中旬頃までの間に遂次同会社の商品仕入先の業者などから被告人小野方に納品させ、各物件は同被告人の新築住宅に取付けられたものであるが、それより前に、かねて被告人梅田は、同会社商品を被告人小野に売るときの代金額は小売定価の二割引程度でよい旨同被告人に話しており、実際にも他の商品をその程度の代金額で売買したことがあり、本件売買に当っても、被告人小野は、代金額を小売定価の二割引程度と考え、売主より提示される金額をそのまま容認して支払う意思であったことが認められる一方、被告人梅田は、前記納品後、被告人小野から代金額の提示を求められたとき、「有る時払いの催促なし」などと称して金額を提示せず、また昭和四三年一二月下旬頃同会社の経理担当者に命じ前記売買物件を他の大口取引先に売渡納入したもののように処理する帳簿上の操作をしようとしたけれども、計算上右取引先に対する売渡代金額が仕入原価を下回る結果となるため、その操作を断念した事実もあって、相当早い時期から債務免除の意図を有するに至ったものと認められるが、同時に、被告人小野との本件売買は同会社にとって正規の小売りとして当初より同会社の経理担当者その他の従業員にもその売渡の事実が知られているところであることが認められ、同会社の正規の小売り取引として前記物件の授受がなされた以上、当事者双方の契約上の意思において売買代金の債権債務関係の発生を当然の前提とするものであることは勿論であり、またその代金額が仕入原価を下回るものではありえないから、当事者双方の意思をその表示されたところに従って合理的に解釈すると、右売買は、小売定価の二割引き程度以下仕入価額以上の範囲内で売主の提示する金額をもって代金額とする売買であると認めることができる。したがって、本件においては、小売定価の金額がいくばくであるかを認めることのできる証拠はないけれども、仕入価額(同会社への仕入先からの卸売価額)である合計金一七万三、八〇〇円以上の金額の代金債務が免除されたものである。そこで、被告人小野は右金額相当の利益を賄賂として取得したものというべきであり刑法第一九七条の五後段により同被告人より右金額を追微する。なお、被告人両名の当公判廷における各供述によると、被告人両名が本件犯罪につき検挙された後の昭和四四年一二月頃、被告人小野より前記会社に対し代金として相当金額の支払がなされたことがうかがわれるが、売買代金自体は代金債務免除による利益そのものではなく、後に代金を支払ったとしても、一旦収受した該利益の価額の追微を妨げる事由にはならない。

被告人梅田の判示第二の一、二の各所為は、いずれも刑法第一九八条第一項(第一九七条第一項前段)、第六条、第一〇条、改正前の罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するところ、それぞれ所定刑中懲役刑を選択し、刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条、第一〇条により重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で処断すべく、同被告人を懲役六月に処し、情状により刑法第二五条第一項第一号を適用して三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して全部これを被告人両名に負担させることとする。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺惺)

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